CSPMとは?クラウドの設定ミスを対策する主な機能・導入のポイントを解説
クラウド環境のセキュリティ管理において、近年注目を集めているのがCSPM(Cloud Security Posture Management)です。本記事では、CSPMの基本概念から主な機能、導入時の注意点、そして他のセキュリティ製品との違いまで、包括的に解説します。
CSPMとは
はじめにCSPMの概要と、類似した用語との違いを解説します。
CSPM(Cloud Security Posture Management)とは
CSPMとは「Cloud Security Posture Management」の略で、日本語では「クラウドセキュリティ態勢管理」を意味します。AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウド環境における「設定ミス」に焦点を当て、それらを継続的に監視・検出するソリューションです。
初期のCSPMでは、設定ミスの検出に加えて、マルチクラウド環境の横断的なリスク可視化や、CISベンチマークやPCI DSSといった業界規制・ガイドラインへの準拠確認など、ガバナンス強化の役割も担いました。
近年は、インターネット露出や権限設定のコンテキストを自動的に判定できるものも増えており、リスクの影響度や発生可能性を踏まえた「リスクベースアプローチ」の強化を実現するなど、より実践的なクラウドセキュリティ管理へと進化しています。
クラウドにおける設定ミスとは
CSPMが検出する「設定ミス」について、詳しく見ていきましょう。設定ミスとは、クラウドサービスの利用設定やセキュリティポリシーを誤って構成してしまうことを指します。
クラウドは利便性が高い反面、管理項目の多さや設定自由度の高さによってセキュリティ設定が複雑化しやすく、人為的ミスが生じやすい一面を持ち合わせています。実際に、ストレージの公開設定ミスによって数百万件の個人情報が漏洩し、大規模なセキュリティインシデントに発展した事例も国内外で報告されています。
代表的な設定ミスの具体例は以下の通りです。
ストレージ/データ保護
個人情報を含む社外秘のファイルが、誰でも自由に閲覧できる状態になってしまう
AWS例:S3バケットを「パブリックアクセス可能」に設定している
ネットワーク構成
本来は社内だけで使うシステムが、全世界からアクセス可能になってしまう
AWS例:EC2のセキュリティグループで「0.0.0.0/0」を許可している
権限管理
ログイン時の多要素認証を設定しておらず、不正アクセスのリスクが高まってしまう
AWS例:IAMユーザーのMFAが未設定である
CSPMが注目される背景
近年、従来のオンプレミスからクラウドにシフトする企業は急速に増加しています。IDC Japanの調査によると、2024年の国内パブリッククラウドサービス市場は前年比26.1%増と報告されており、2029年には2024年比で市場規模は約2.1倍になると予測されています。

一方で、クラウド利用の拡大に比例してセキュリティリスクも顕在化しています。クラウドはスピーディに構築できる反面、管理画面やAPIがインターネットに公開される構造上、攻撃を受けやすい性質があります。セキュリティ対策を怠れば、攻撃者にとって格好の標的となりかねません。
これらのリスクの顕在化を受け、2024年4月には総務省が「クラウドの設定ミス対策ガイドブック」を公開し、国を挙げての対策が進められています。
▼ 総務省「クラウド設定ミス対策ガイドブック」を解説した資料はこちら
https://cloudbase.ink/whitepaper/wp-mic-guidelines
このような背景から、クラウド全体のセキュリティリスクを横断的に検出し、設定ミスを自動で検出できるCSPMや、さらに広範にクラウドリスクをカバーするCNAPPの導入が加速しています。CSPMは単なるトレンドではなく、クラウド時代のセキュリティ基盤を支える必須のソリューションとして、今後ますます不可欠な存在になるでしょう。
CSPMの主な機能
ここからは、Cloudbase製品画面を例に、CSPMの代表的な機能を紹介します。
1. 設定ミスの検出

CSPMの中核的な機能は、クラウド環境に潜む「設定ミス」の自動検出です。ストレージが意図せず公開状態になっていないか、ネットワークが意図せず全世界から接続可能になっていないか、権限が過剰に付与されたアカウントがないかといったリスクを、ルールに基づいて監視します。人の目では発見が難しい膨大なリソースを、網羅的にチェックできます。
2. リスクの優先度付け(トリアージ)

クラウド環境の規模によっては、検出されるリスクが数千から数万件にのぼることもあります。これらすべてに対応するのは現実的ではありません。そこでCSPMは、リスクの重大度や影響範囲などを基準に優先度を自動で割り当て、対応の優先順位づけを支援します。これにより、ビジネスへの影響が最も大きいリスクから効率的に対処でき、限られたリソースでも効果的なセキュリティ運用を実現できます。
3. リスク修復支援

検出したリスクを修復するための具体的な手順を提示するのも、CSPMの重要な機能です。「この設定を変更する」「このポリシーを適用する」といったガイドラインを提示することで、現場担当者が自走できる環境を整えます。自動でリスクを修復できる機能も備えたCSPMもあります。
4. 継続的なモニタリングとアラート

CSPMは一度きりのスキャンではなく、クラウド環境を常に監視し続けます。新たに追加されたリソースや変更された設定がガイドラインに違反すると、即座に検出しアラートを出します。これにより、クラウドの利用が日々変化する中でも、セキュリティ水準を継続的に維持できます。
5. コンプライアンス準拠率の確認

CISベンチマーク、PCI DSS、ISO 27001といった国際的な業界標準、またFISC安全対策基準など業界特有のガイドラインに基づき、クラウド環境設定が基準に準拠しているかを検証できます。
6. 複数の組織におけるクラウド環境の横断可視化

多くの企業では、部署や部門ごとに独自のクラウド環境を構築・運用しており、管理が分散しやすい傾向があります。CSPMがこれらを横断的に監視・可視化することで、組織全体のセキュリティ状況を一元的に把握できるようになります。
CSPMと他ソリューションとの違い
クラウドセキュリティ領域には、複数の関連ソリューションが存在します。ここではCSPMと混同されやすいソリューションとの違いを整理します。
SSPMとの違い
SSPM(SaaS Security Posture Management)は、Microsoft 365、Google Workspace、SalesforceなどのSaaSアプリケーション内部の設定不備を監視する製品です。
例えば、共有範囲の誤設定、認証ポリシーの不備、外部アプリ連携のリスクなどを検出します。
CSPMがAWSやAzureなどのクラウドインフラ(IaaS/PaaS)を対象にするのに対し、SSPMはSaaSを対象とするため、守備範囲が明確に異なるのが特徴です。
CASBとの違い
CASB(Cloud Access Security Broker)は、ユーザーがクラウドサービス、特にSaaSをどのように利用しているかを可視化・制御する製品です。
例えば、不審なログインの検知や、承認されていないSaaSアプリの利用(シャドーIT)のブロック、データ損失防止(DLP)などを担います。
SSPMと同じくSaaSを対象としていますが、CASBは「誰がどこにアクセスしているか」を管理し、SSPMは「そのSaaSの内部設定が安全かどうか」を監査する点が大きな違いです。
CWPPとの違い
CWPP(Cloud Workload Protection Platform)は、仮想マシンやコンテナなどの稼働中のワークロードを保護する製品です。
CSPMが「公開設定や権限などの設定ミス」を監視するのに対し、CWPPは「実行中のワークロードに対する攻撃や脆弱性」を検出・防御します。
例えば、CSPMは「EC2インスタンスが全世界に公開されている状態」を検出するのに対し、CWPPは「そのインスタンス上で脆弱なソフトウェアが稼働していること」を検出します。
つまり、CSPMは事前の予防、CWPPは稼働中の保護に強みがあるという違いがあります。
CNAPPとの違い
CNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)は、CSPMやCWPPを含む複数のクラウドセキュリティ機能を統合した、包括的なクラウド保護プラットフォームです。
CSPM単体では設定ミスの検出に強みがありますが、CNAPPはそれに加えて、ワークロード保護(CWPP)、権限管理(CIEM)などを統合的に提供します。
つまり、CSPMはCNAPPの構成要素の一つであり、「クラウドの設定ミスを検出する機能」としてCNAPPの中に位置づけられます。
CSPM運用におけるポイント
CSPM導入で最も重要なのは、「実際に運用が回ること」です。CSPMでクラウド環境のリスクを網羅的に検出しても、そのリスクを解決できなければ意味がありません。
適切にCSPMの運用を回すためには、以下の3つの基盤整備と点検が重要です。
方針とロードマップの策定
セキュリティ運用は「堅牢性の強化」と「生産性の向上」を両立させることが理想です。そのためには、現状のセキュリティレベルやリソースを踏まえ、段階的に取り組みを進めるロードマップを描くことが重要です。
例えば、まずは重大なリスク対応を優先し、その後に多層防御やコンプライアンス準拠へと範囲を広げるなど、自社の状況に合わせた段階的なアプローチが求められます。
AWSからも「AWSセキュリティ成熟度モデル」が提供されています。セキュリティレベルを段階的に向上させる考え方の一例として、ぜひご参照ください。
運用ルールの策定
リスク検出後の判断や対応を、担当者が迷わず進められるように運用ルールを明確化しておくことも必要です。「リスクの解釈方法」「修正手順」「エスカレーション先」などをシンプルかつ現実的に定義し、ドキュメント化することで、運用が安定します。ロードマップと同様に、最初から完璧なルール策定を目指すのではなく、自社の成熟度に合わせて段階的に引き上げていくのが効果的です。
運用の評価と改善
運用ルールは一度決めて終わりではなく、実際に現場でどの程度守られているかを定期的に点検することが大切です。特に関係者が多い場合は、一度で運用が適切に回ることは稀です。 遵守率が低い運用ルールがあれば、何がボトルネックになっているかを分析し、ルールやプロセスを改善していきます。評価と改善のサイクルを回すことで、より実効性の高い運用へと成熟させることができます。
Cloudbaseは、「運用が回る」ことにこだわったCSPM / CNAPPです。マルチクラウドにおける横断的なリスク検出はもちろん、検出リスクの優先順位づけや、リスク解決手順を示した日本ドキュメントの提供など、運用を支える仕組みを備えています。さらに、CISベンチマークやFISC安全対策基準など、各種コンプライアンスにも対応しています。
CSPMの導入を検討されている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。



